『田所トメ子の事件簿〜花壇の記憶』~ 第1話
主婦探偵・田所トメ子が庭園で起こる事件の真相を追う、五夜連続のミステリー
主要登場人物
探偵側
田所トメ子:主婦探偵。園芸の知識が豊富で観察力が鋭い。正義感が強く、花や庭に隠された異変を見逃さない。
田所ケイジ:トメ子の夫。温厚で家庭的だが、時折トメ子の調査に巻き込まれる。
田所ユキ:田所トメ子・ケイジの娘。中学生。園芸クラブの手伝い経験あり。トメ子の情報収集を手伝う。スマホで写真を撮るなど、現代的な推理補助。
被害者・関係者
高橋康夫:園芸クラブ会長。町内一のバラの育成者。
高橋雅子:高橋の妻。夫の行動に疑問を持つが、表向きは穏やか。庭園の秘密を知る人物。
園芸クラブメンバー
佐藤ミドリ:ライバル意識が強い女性会員。会長に嫉妬している。
山本ヒロシ:新参会員。見た目は温厚だが、バラの品種に強いこだわりを持つ。
田辺サクラ:ベテラン女性会員。園芸の知識豊富でトメ子に情報を提供するが、過去の対立が事件に絡む。
町内関係者・サブキャラクター
老人会メンバー(複数):庭園の手入れを手伝う高齢者たち。事件目撃情報や小さな矛盾を提供。
町内会長・吉田:事件解決に協力するが、内部事情には口をつぐむことも。
郵便配達員・石田:事件当日の庭の様子を偶然目撃。小さなヒントをトメ子に渡す。
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第1話:庭の闇
深夜の町内会館裏手の庭園。
満月の光が静かに地面を照らしていた。
赤く咲いたバラの一輪が、無惨に引き抜かれたまま地面に横たわる。
その隣には倒れたプランター。泥にまみれた軍手がぽつんと落ちている。
佐藤ミドリは、手を握りしめ、視線を彷徨わせていた。
「……まさか、こんなことになるなんて……」
田辺サクラは古い手袋の泥を払いながら、倒れたプランターの傾きに目をやる。
「誰が……高橋さんに……」
庭の片隅では、老人会のメンバーが土をかき分け、何かを探るようにしてしゃがみ込んでいる。
「いや、こんな跡……俺らでもここまで荒らせんぞ」
そのときだった。
庭の中央に倒れ込むように横たわっている人影を、郵便配達員の石田が見つけて駆け寄る。
「……ちょっと待って! これ、人じゃ……」
ライトが照らされた先にあったのは、動かぬ高橋康夫の姿だった。
顔は土に半ば埋まり、胸元には泥と擦り傷。腕は不自然な角度に折れ曲がり、すでに息はなかった。
悲鳴が庭に響く。佐藤ミドリは口を覆い、田辺サクラは腰を抜かす。
町内会長の吉田が青ざめながらも低く言った。
「……警察にはまだ連絡していないな。まずは……状況確認だ」
しかし現実は残酷だった。康夫は確かに“他殺”を示す痕跡を残していた。背中に強い打撃痕、そして近くに転がる鈍器のような石。
石田が小声で呟く。
「土の色……なんか違う気がする」
やがて通報を受けた救急車と警察が到着し、現場は騒然となった。
ストレッチャーに載せられた康夫の遺体は、シートで覆われ静かに運び出されていく。
その姿を見送るとき、集まった人々の間に重い沈黙が落ちた。
現場は騒然となり、住民たちの間に動揺が広がっていた。
佐藤ミドリは青ざめた顔で吉田に縋りついた。
「ど、どうしたら……園芸クラブは……わたしたちの責任じゃ……」
吉田はしばし黙り込み、深い溜息をついた。
「こうなった以上……あの人を呼ぶしかあるまい」
「……あの人?」
「田所トメ子さんだ。園芸のことも、この町のことも一番知ってる。警察任せだけじゃ真相は闇に埋もれるぞ」
吉田の言葉に、周りの老人会メンバーもうなずいた。
「あの奥さんなら……」
その場で吉田は震える手で電話を取り出し、田所家へと連絡を入れた。
その夜。電話を受けたトメ子は、すぐに上着を羽織り、ケイジとユキを半ば強引に連れ出した。
「行くわよ。現場を自分の目で見なきゃ気が済まないわ」
ケイジが肩に手を回し、庭を見やりながらぼやく。
「ほんとに、なんでこんな夜に……」
ユキはスマホで庭の写真を撮りながら、母に尋ねる。
「お母さん、これって大丈夫なの?」
「大丈夫。花壇は……正義だから」
トメ子は微笑みながら、庭の不自然な土の跡に目を向ける。倒れたプランター、赤いバラ、そして陰に潜む夾竹桃――すべてが小さな違和感を訴えている。
庭の中央、倒れたバラの近くで、佐藤ミドリが顔を背け、口をつぐんでいた。
「……会長が……」
トメ子は赤いバラを指先で軽くこすり、観察する。
「この鉢、誰かが“植え替えて”いるわね」
目の前に広がる景色は、一見、単なる庭の乱れ。しかし、トメ子には確信があった――
誰かが、高橋康夫を狙ったのだ、と。
庭の隅では田辺サクラが静かに土の跡を確認し、老人会メンバーが視線を交わす。
ユキが小声で囁く。
「お母さん……これって殺人事件だよね?」
トメ子は静かに頷いた。
「ええ。でも真相は、土と花が教えてくれるわ」
倒れたプランターの角度、微妙にずれた土の色、夾竹桃の影……すべてが、この事件の痕跡だ。
庭に漂う冷たい空気の中で、赤いバラは夜明けの光を反射していた。
そして、主婦探偵・田所トメ子は決意を固める――
この庭の闇を、掘り起こすのだ、と。
次回予告(第2話)
「微かに残る足跡、倒れたプランター、赤いバラ――
すべての証拠が少しずつ繋がり始める。
主婦探偵・田所トメ子、夜の庭で、真実への第一歩を踏み出す!」

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