「Kallsson (カルソン)・泉・ピン子は見ちゃった! 北欧湖畔のシナモンロール殺人事件 ~第1話」

 



【火曜サスペンス劇場風 第1話】
『北欧断崖ミステリー ~Kallsson・泉・ピン子は見ちゃった!~
 月明かりの湖畔、見ちゃった

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登場人物紹介

Kallsson ・ピン子(Kallsson Pinco

日本とスウェーデンのハーフ、30代の女性。

聡明で観察力に優れ、直感が鋭い。

父との再会を機に、北欧の湖畔のホテルで滞在する。

Kallsson Kristian(カルソン・クリスティアン)

ピン子の父。スウェーデン人。

穏やかで落ち着いた人物だが、何かを深く考えているような表情を見せることも。

娘・ピン子を温かく見守る存在。

Lars Lindgren(ラーシュ・リンドグレン)

グランドホテル・カネルブッレバーデンのレセプショニスト。

若く端正な容姿で、物腰が丁寧。

ホテルの業務をしっかりとこなす一方で、独自のこだわりを持っているような人物。

田所トメ子(Tadokoro Tomeko

ピン子の日本での隣人であり友人。

現場や情報をもとに的確なアドバイスをくれる頼れる存在。

ピン子の行動を支える通信手段として重要な役割を担う。

シェフ

ホテルの厨房を取り仕切る男性。

料理やホテル運営にこだわりがあるが、やや秘密めいた一面も。

画家風の老人

湖畔を好んで訪れる謎めいた人物。

静かで観察力があり、ホテル内でも一定の存在感を放つ。

ベテランウェイトレス

長くホテルで働く女性スタッフ。

周囲の状況に敏感で、宿泊客の様子をよく見ている。

ビジネスマン風宿泊客

ホテルに滞在する男性客。

落ち着いて見えるが、行動や証言には何か秘密があるかも

カップル客

ホテルに滞在する男女。

表面的には仲睦まじく見えるが、状況や発言に微妙なズレがある。

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――羽田空港 国際線ターミナル。
搭乗ゲートを進むのは30代の女性。
Kallsson(カルソン)・泉・ピン子。
日本とスウェーデンの血を受け継ぎ、表情にはどこか影のようなものが差している。

ナレーション:
「カルソン・泉・ピン子。30代、独身。母は日本人・泉しげ子、父はスウェーデン人・Kallsson Kristian (カルソン・クリスティアン)。父娘の再会が、不穏な事件の幕開けとなるとは、このとき彼女はまだ知らなかった――

――ストックホルム・アーランダ空港。
長旅を終えて到着ロビーに姿を現したピン子を迎えたのは、背の高い白髪の紳士。父Kallsson Kristian (カルソン・クリスティアン)

二人はスウェーデン語で会話を交わす。

ピン子:「Papa!」
クリスティアン:「Välkommen hem, min dotter. Du ser trött ut.(おかえり、娘よ。少し疲れているようだね)」
ピン子:Resan var lång, men jag ville träffa pappa så snart som möjligt.
(旅は長かったけど、できるだけ早くパパに会いたかったの)

ピン子(心の声):
「父さんに会うのも、もう何年ぶりかしら…」

クリスティアンは少し微笑むが、その目には言葉にしがたい翳り。

クリスティアン:「Det är bra att du är här nu. Men… den här platsen är inte alltid så lugn som den ser ut.(来てくれてうれしいよ。だがここは見た目ほど平穏な場所じゃないんだ)」
ピン子:「Vad menar du?(どういう意味?)」

父は答えず、荷物を受け取り歩き出す。
ピン子は不安を覚えながら後を追う。

――二人が車で向かうのは、湖畔のリゾート地。
Grand Hotel Kanelbullebaden(グランドホテル・カネルブッレバーデン)
“カネルブッレ”はシナモンロール、“バーデン”は温泉。
つまり――「シナモンロール温泉ホテル」。

そこで提供されるシナモンロールは世界一おいしいと評判のホテルである。

またそのレシピも門外不出であることで、それもまたここのシナモンロールの人気を押し上げている。

――Grand Hotel Kanelbullebaden ロビー。
広々とした吹き抜けの天井、重厚なシャンデリア。窓の向こうには湖面が静かに光っている。

ピン子とクリスティアンが荷物を手に歩み寄ると、レセプションカウンターの向こうに、長身で端正な顔立ちの男が穏やかな微笑を浮かべ、落ち着いた声で話しかけてきた。

ファッション雑誌の表紙を飾ってもおかしくないようなかなりのイケメンである。



レセプショニスト(穏やかに、落ち着いた声で):
God morgon! Välkommen till Grand Hotel Kanelbullebaden. Jag heter Lars Lindgren. Hur kan jag hjälpa er idag?
(おはようございます!グランドホテル・カネルブッレバーデンへようこそ。私はラーシュ・リンドグレンです。本日はいかがなさいますか?)」

――泉ピン子(心の声・思わずため息まじりに):
「すごいカッコいい人…まるで若い頃のアラン・ドロンあるいは草刈正雄って感じかしら」

クリスティアン(微笑みながら、丁寧に):
„Tack, vi har bokat ett rum under namnet Kallsson.
(ありがとうございます。カルソンという名前で予約しています)

ラーシュはコンピュータに手をかけ、画面を確認しながら頷く。
ラーシュ:「Ah, ja… Kallsson. Här är ert rum, med utsikt över sjön.(ああ、はいカルソン様。こちらが湖が見えるお部屋です)」

ピン子(少し興奮気味に、父に耳打ち):
Papa… utsikt över sjön… 湖が見えるわ!」

クリスティアンは小さく頷き、ピン子の肩に手を置く。
クリスティアン:「Ja, det blir bra.(ああ、いい眺めだ)」

ラーシュは鍵を二つ手渡しながら、親切そうに微笑む。
ラーシュ:「Här är nycklarna. Frukost serveras från klockan åtta. Och förresten… vårt hotel erbjuder världens bästa kanelbullar. Ni måste prova dem!(こちらが鍵です。朝食は8時からです。それと当ホテルでは世界一のシナモンロールをご提供しています。ぜひ一度お試しください!)」

ピン子は鍵を受け取りながら、心の中で観察を始める。
ピン子(心の声):「彼表情は穏やかだけど、目が鋭いわね。それよりも世界一のシナモンロール絶対たべなきゃ!

クリスティアン:「Tack, Lars. Vi ser fram emot vår vistelse.(ありがとう、ラーシュ。滞在を楽しみにしているよ)」

ラーシュ:「Det gläder mig. Ha en trevlig vistelse!(そう言っていただけてうれしいです。どうぞごゆっくりお過ごしください)」

――ピン子と父は荷物を持ってエレベーターへ向かう。
窓の外に広がる湖面が、朝陽にきらめき、静かに事件の幕開けを予感させていた。

 

――その夜。
ホテルのレストラン。
湖を望むガラス窓の向こうに、月光が白く差し込んでいる。
宿泊客たちはそれぞれワイングラスを傾け、北欧料理を前に談笑していた。
暖炉の炎がぱちぱちと音を立て、どこか和やかで、しかし妙に緊張感の混ざる空気。

そのとき――
テーブルの端に座っていた中年男性客が、急に背筋を伸ばし、手を広げるようにして声を張り上げた。

男性客:「Imorgon bitti ska jag bjuda er på världens bästa kanelbulle! Ni får inte missa det!
(明日の朝、世界一のシナモンロールを食わせてやる!期待してろ!)」

場は一瞬、凍りつく。
ナイフとフォークの音が止まり、スープをすくおうとしたスプーンが宙で固まる。

ピン子(心の声):「……シナモンロール?なぜ、こんなに大げさに?」

レストランの空気は奇妙に変わった。
客たちは互いに顔を見合わせるが、誰もその言葉の意味を問わない。
ただ、淡く笑う者、顔を伏せる者、そして一人だけ、苦々しい表情でグラスを握りしめる者がいた。

シェフは厨房の入口からそっと顔を出し、だがすぐに視線を逸らした。
ウェイトレスも小さく咳払いをし、沈黙を破ろうとしたが声が出ない。

父・クリスティアンはワイングラスを口に運びながら、低く呟く。
クリスティアン:「Pinco… märkligt, eller hur?(ピン子奇妙だろう?)」
ピン子:「Ja, pappa. Väldigt märkligt.(ええ、父さん。本当に妙だわ)」

ナレーション:
「甘く香るはずのシナモンロール。だが、それはここに集う者たちの心をざわつかせ、やがて――血の匂いへと変わっていく」

沈黙のあと、誰もが何事もなかったように笑い声を再開する。
だが、さっきの宣言だけは、重く空気に沈んでいた。
シナモンの甘い香りに混じって、どこか焦げたような不穏さが漂う。

 

――深夜。
旅の興奮のためか、なかなか寝つくことが出来ないピン子は湖畔を散歩することにした

湖が立てるさざ波の音だけが響く静寂だけが支配する中、
ふと、森の奥から、男たちの声

男性客の怒鳴り声:「Släpp mig! Jag sa att jag…!(離せ!俺は言っただろ!)」
もう一人の声:「Tyst! Ingen får veta.(静かに誰にも知られてはならない)」

ピン子は木の陰で固唾を呑む。
月光の中で二つの影がもみ合い――

「うわああっ!」
男性客が断崖から転落、湖面に大きな水音が響き渡る。

ピン子:「そんな……!」

ピン子(心の声):「あのさっきレストランで“明日の朝、世界一のシナモンロールを食わせてやる!”って言ってた人よね…?」

次の瞬間、背筋に氷のような寒気。
「見られた?」という直感に突き動かされ、ピン子は足をもつれさせながら森を駆け出した。
枝が髪をかすめ、夜露で滑る小道を必死に走る。
振り返るたびに、暗闇から誰かが追ってくるような気配が背中を押した。



ホテルの灯りが遠くに見えたとき、思わず「助かった!」と声が漏れる。
ロビーを通る余裕もなく、彼女はそのままエレベーターに飛び込み、自分の部屋の鍵を震える手で差し込む。

ドアを閉めた瞬間、胸の奥で心臓が爆発するように高鳴った。
窓の外からは、なおも湖面を叩く波音が聞こえる。

ピン子(心の声):
……あれは、絶対に事故なんかじゃない」

だが、その確信を共有できる相手は、このホテルにはいない。
甘いシナモンの香りさえ、不気味な影を帯びて感じられるのだった。

――翌朝。
スウェーデン警察がホテルに到着。制服姿の警官が、事務的に現場検証を行う。

警官:「Det här är bara en olycka. Han drack mycket alkohol.(これはただの事故だ。彼は大量に酒を飲んでいた)」
ピン子:「Nej! Jag hörde röster, de bråkade!(違うわ!声がしたの、争っていたのよ!)」

別の警官が首をかしげる。
警官B:「Är hon japanska? Eller svensk?(彼女は日本人か?それともスウェーデン人か?)」
警官C:「Spelar det någon roll?(関係あるのか?)」

警官Bは渋い顔で答える。
Om hon är svensk, är hon vittne. Om japanska… turister överdriver.(もし彼女がスウェーデン人なら証人だ。だが日本人なら観光客は大げさに言うものだ)」

ピン子(苛立ち):「Jag är båda! Men det jag såg är sanninge (私はどっちでもあるの!でも見たものは真実よ!)

クリスティアン(父):「Min dotter talar sanning!(娘は真実を語っている!)」

だが警察は淡々と記録を取り、
Olycka. Fallet är avslutat.(事故だ。事件は終了した)」と告げて去っていく。

ナレーション:
「だが――泉ピン子だけは知っていた。これはただの事故ではない、と」

部屋に戻ると、ピン子は携帯を取り出し、日本の隣人・田所トメ子に連絡する。

ピン子:「トメちゃん、大変!これ、絶対事件よ!」
トメ子(電話口で即答):「あんたねぇ、だったらメモ帳とボールペン!現場は証拠がすべてなんだから!」

ピン子:「分かったわ!」

――窓の外。
湖面に浮かぶ月が、不気味に歪んで揺れている。

ナレーション:
「犯人はまだ、このホテルの中にいる」

そして、物語は不穏に転がり始める――

【次回予告】
湖畔に潜む影、冷凍魚のアリバイ、そして揺れる国籍の狭間。
ピン子の追及が、真実の扉を開けるのか!?

『北欧断崖ミステリー ~Kallsson・泉・ピン子は見ちゃった!~
 第2話 湖畔に潜む影』

――お楽しみに。

 

 

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