「Kallsson (カルソン)・泉・ピン子は見ちゃった! 北欧湖畔のシナモンロール殺人事件 ~第2話」

 


【火曜サスペンス劇場風 第2話】

『北欧断崖ミステリー ~Kallsson・泉・ピン子は見ちゃった!~
  湖畔に潜む影』

――オープニング。
湖畔に朝靄が立ち込める。
Grand Hotel Kanelbullebaden(グランドホテル・カネルブッレバーデン)は一見平穏だが、重苦しい空気が漂う。
昨夜の転落死は事故として処理されつつあるが、宿泊客の表情には微かな恐怖と不安がにじむ。

ナレーション:
「湖に沈んだ男――前夜、レストランで『明日の朝、世界一のシナモンロールを食わせてやる!』と大声で宣言したあの男性だった。偶然か、必然か――。だが、このホテルの中には、不穏な空気が漂っていた


――ホテル食堂。
ピン子はシェフに声をかける。

シェフ:「Igår kväll? Jag var i köket och fileade fisk hela tiden.(昨日の夜?私はずっと台所で魚を捌いていたよ)」
ピン子:「Men fisken var fryst, den höll på att tina.(でも魚は冷凍だったはずよ。解凍中じゃなかった?)」
シェフは笑いながら肩をすくめる。
シェフ:「Åh, du har bra öga, kanske jag ljuger…(ああ、よく見てるね。もしかして私は嘘をついているのかも)」

――廊下で、画家風の老人と遭遇。
老人:「Jag målade månen vid sjön hela natten. Jag såg inget.(私は夜通し湖の月を描いていた。何も見ていないよ)」
ピン子(心の声):「スケッチブックは真っ白。」

――若い女性客。
女性客:「Jag satt i bastun hela kvällen och somnade där.(夜はずっとサウナにいて寝ちゃったの)」
ピン子(心の声):「でもサウナには誰も入った記録がない

――ベテランウェイトレス。
ウェイトレス:「Jag såg flera människor röra sig konstigt i korridoren.(廊下で何人か妙に動いているのを見たわ)」
ピン子:「Konstigt? Vad menar du?(妙に?どういうこと?)」
ウェイトレス:「De verkade gömma något.(何かを隠しているように見えたの)」

――ビジネスマン風宿泊客。
ビジネスマン:「Jag var på rummet hela kvällen, jobbade.(私は夜はずっと部屋で仕事してた)」
用務員:「Nej, jag såg honom gå ut i korridoren sent på kvällen.(いや、彼は夜遅く廊下に出てたよ)」
ピン子(心の声):「アリバイに早くも矛盾

――カップル客。
女性:「Vi var tillsammans på balkongen.(私たちはバルコニーにいた)」
男性:「Nej, du gick in först.(いや、君が先に部屋に入ったはずだ)」
ピン子(心の声):「小さな矛盾の積み重ねこれが事件の鍵になるのね。」




――ピン子、スマホでトメ子にLINE
ピン子:「トメちゃん、全員怪しいの。シェフも老人も、女性客も。何か隠してるわ。」
トメ子:「なるほどね。怪しいと思ったら疑うのよ。小さな矛盾を見逃さないこと!」
ピン子:「矛盾少しずつ繋がってきそう。父さんも言ってた、全員が真実を語ってるわけじゃないって。」
トメ子:「いいわ、ピン子。観察してメモ!あとは感覚を信じるのよ!」

 

 

――ホテルのロビー。
天井のシャンデリアが揺れ、床に落ちる光と影が交互に動いている。
どこか遠くからかすかにピアノの音が響き、人気のないロビーをさらに不気味に彩っていた。

父・カルソン・クリスティアンが現れる。
ゆっくりとした足取りで近づき、ピン子の手を静かに握る。

クリスティアン:「Pinco, du ser bekymrad ut. Lita på din instinkt.
(ピン子、心配そうだね。自分の直感を信じなさい)」

ピン子はわずかに眉をひそめ、父の瞳を探る。
そこには優しさと同時に、言葉にできない影が差しているように見えた。

ピン子:「Jag vet, pappa… men allt känns konstigt här.
(分かってるわ、父さんでも、ここは全てが妙におかしい)」

クリスティアンは一瞬言葉を飲み込み、静かに声を落とす。

クリスティアン:「Men Pinco… gå inte för djupt. Det kan vara farligt.
(でもピン子あまり深入りするな。危険かもしれない)」

その声には、父としての不安と、長年の経験からくる確信が混じっていた。
ピン子はしばらく黙り込み、やがて小さくうなずく。

ロビーの古時計が低く鐘を鳴らす。
その響きは、甘い香りの裏に潜む不安を増幅させるかのように重苦しく広がっていく。

ナレーション:
「ホテルに漂う甘いシナモンの香り――だが、その奥には、宿泊客たちの小さな嘘が積もっていた。
そしてその嘘は、やがてピン子をさらなる危険へと誘うのだった

――夜。
再び湖畔に出たピン子。
月光が湖面を銀色に揺らす中、霧が低く立ち込め、湖岸の輪郭をぼんやりとしか見せない。

足音がかすかに聞こえる――自分の靴の音よりも微かに、誰かの足音が混じっている。
ピン子は立ち止まり、息を潜めて耳を澄ます。

背後に黒い影。木立の間を素早く移動する。
ピン子の心臓が跳ね、血の気が引く。

ピン子(心の声):「まさか尾行されてる?」

小枝が折れる音がする。
風のせいかと思うが、影は距離を詰めてくる。
湖面に映る自分の影が、ひときわ大きく揺れた。

ピン子:「…Vem är där?(誰?)」

返事はない。木々のざわめきが不規則に響き、影が湖面の波と一体化して迫ってくる。
思わず後ずさると、足元の湿った土が滑る。

「まずい!」
月光に照らされ、影の輪郭が少しだけ湖畔に現れた。
人影か、それとも樹の影か、判然としない。

ピン子は全身に力を入れ、息を殺して静かに後退する。
湖畔の霧が彼女を覆い、影はゆっくりと距離を詰める。

心臓の鼓動が耳の奥で鳴り響き、霧に混じった影の輪郭が、まるで何か意思を持って迫ってくるかのように見えた――

ピン子は振り返ることもせず一目散でホテルへ帰った。

ナレーション:
「甘い香りに包まれたシナモンロール温泉ホテル。だが、その中で膨らむのは、小麦でもシナモンでもない――殺意の闇だった」

――父・クリスティアンのさりげない助言。
クリスティアン:「Var försiktig, Pinco. Inte alla här säger sanningen.(気をつけろ、ピン子。ここにいる全員が真実を語っているわけではない)」
ピン子(心の声):「父さんやっぱり勘が鋭いわね」

【次回予告】
消えたシナモンロール。
世界一の味をめぐる狂気。
そして迫る新たな影――


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登場人物紹介

Kallsson ・ピン子(Kallsson Pinco

日本とスウェーデンのハーフ、30代の女性。

聡明で観察力に優れ、直感が鋭い。

父との再会を機に、北欧の湖畔のホテルで滞在する。

Kallsson Kristian(カルソン・クリスティアン)

ピン子の父。スウェーデン人。

穏やかで落ち着いた人物だが、何かを深く考えているような表情を見せることも。

娘・ピン子を温かく見守る存在。

Lars Lindgren(ラーシュ・リンドグレン)

グランドホテル・カネルブッレバーデンのレセプショニスト。

若く端正な容姿で、物腰が丁寧。

ホテルの業務をしっかりとこなす一方で、独自のこだわりを持っているような人物。

田所トメ子(Tadokoro Tomeko

ピン子の日本での友人。

現場や情報をもとに的確なアドバイスをくれる頼れる存在。

ピン子の行動を支える通信手段として重要な役割を担う。

シェフ

ホテルの厨房を取り仕切る男性。

料理やホテル運営にこだわりがあるが、やや秘密めいた一面も。

画家風の老人

湖畔を好んで訪れる謎めいた人物。

静かで観察力があり、ホテル内でも一定の存在感を放つ。

ベテランウェイトレス

長くホテルで働く女性スタッフ。

周囲の状況に敏感で、宿泊客の様子をよく見ている。

ビジネスマン風宿泊客

ホテルに滞在する男性客。

落ち着いて見えるが、行動や証言には何か秘密があるかも

カップル客

ホテルに滞在する男女。

表面的には仲睦まじく見えるが、状況や発言に微妙なズレがある。


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