「Kallsson (カルソン)・泉・ピン子は見ちゃった! 北欧湖畔のシナモンロール殺人事件 ~第3話」

 


【火曜サスペンス劇場風 第3話】
『北欧断崖ミステリー ~Kallsson・泉・ピン子は見ちゃった!~
  鍵はシナモンロール』


――早朝


Grand Hotel Kanelbullebaden(グランドホテル・カネルブッレバーデン)の一階奥、ベーカリーコーナー。

まだ客の足音もまばらな館内に、ふいに漂い始めるのは、甘く濃厚なシナモンの香り。
静かな湖畔の空気を震わせるように、ふわりと重たく、それでいて温かい気配が広がっていく。

窓辺に立つピン子は、薄いストールを肩にかけたまま、トレーに並ぶ焼きたてのロールをじっと見つめていた。
ガラス越しに射し込む朝の光は、北欧特有の冷たい白さを帯びながらも、シナモンと砂糖が溶け合った表面をやわらかく照らし、まるで黄金の粒が散りばめられているかのように輝かせていた。

ピン子(心の声):
……この香り。この光。この艶。
犠牲者が最後に口にしていた世界一のシナモンロール”――それは、きっとここにあったのね。」

一歩近づいて、トレーの上をそっと見渡す。
表面に小さく滲んだ砂糖の結晶、巻き込まれたシナモンの縞模様、焼き色のグラデーション――ひとつひとつに職人の気配が残っている。

だが、その整然と並ぶ列に、不意に違和感。
ひとつだけ、ぽっかりと空白が空いていた。
焼きたてのロールの間に、不自然にぽっかりと――そこだけ何かを奪い取られたように。

ピン子は思わず息を呑んだ。
冷たい指先に、じわりと汗がにじむ。
ほんのささいな空白が、今や重大な意味を帯びて迫ってくる。

ピン子(小さくつぶやく):
Det saknas en kanelbulle…
――一個、消えてる……

その声は、窓に射し込む光に溶けて、湖畔の静寂へと沈んでいった。

――スマホでトメ子にLINE

ピン子:「トメちゃん、ベーカリーで一個だけシナモンロールが消えてるの!怪しいわ!」
トメ子:「ピン子!シナモンロールは正義よ!どんな小さな手掛かりも見逃しちゃだめよ!」
ピン子:「うん!きっと真実はスイーツの中にあるの!」

――聞き込み開始。

――厨房。
シェフが魚の解凍作業をしながら、ピン子を見上げる。
ピン子:「Du bakade dem, men du smakade inte ens?(焼いたのに味見すらしてないの?)」
シェフ:「Nej, nej. Min fru säger alltid att jag måste banta, så jag smakar aldrig. Jag lovar, jag såg inget konstigt.(いや、妻がダイエットしろって言うから一口も食べないんだ。変なことは何も見てない)」
ピン子:「Men… vem tog då den saknade bullen?(でもじゃあ消えたロールは誰が?)」
シェフ:「Jag vet verkligen inte! Kanske någon tog den innan frukost… eller… någon skojar med dig.(本当に知らない!朝食前に誰かが取ったのかそれとも、誰かの悪ふざけかも)」
ピン子(心の声):
「ふざけて取る?でも、ただの一個でここまで緊張する人がいるかしら

――ラウンジで若い女性客と会話。
女性客:「Jag tyckte att den var för söt. Men jag åt bara en bit.(甘すぎたと思うけど、一口だけしか食べてない)」
ピン子:「Bara en bit? Varför inte mer?(一口だけ?どうしてもっと食べなかったの?)」
女性客:「Jag… jag vet inte… smaken var konstig, lite bitter, som om någon hade lagt något i den.(味が変で、少し苦く感じたの。誰かが何か混ぜたみたい)」
ピン子:「Någon… lade något? Vad menar du?(誰かが混ぜたって?どういう意味?)」
女性客:「Jag vill inte anklaga någon… men jag blev rädd. Det var… inte normalt.(誰かを責めたいわけじゃないけど、怖くなったの。普通じゃなかった)」
ピン子(心の声):
「小さな手がかり誰かがわざとやった可能性がある

――廊下。画家風の老人がスケッチブックを手に歩く。
ピン子:「Herr, såg ni något ovanligt igår kväll?(昨夜、何か変わったことを見ませんでしたか?)」
老人:「Jag målade månen vid sjön hela natten, men… jag kanske hörde något. Några röster i skogen, men jag trodde att det var vinden.(夜通し月を描いていた。でも何か聞こえた気もする。森の中で誰かの声がしたけど、風のせいだと思った)」
ピン子:「Röster i skogen? Vad sa de?(森の声?何を言っていたんですか?)」
老人:「Jag kunde inte riktigt höra orden… men det lät som en diskussion. Jag ville inte blanda mig i.(正確には聞き取れなかったでも議論しているようだった。私は口を出さなかった)」
ピン子(心の声):
「やっぱり、誰かがあの夜森にいた

――ベテランウェイトレスが近づく。
ウェイトレス:「Jag såg flera människor röra sig konstigt i korridoren sent igår kväll. De verkade hemlighetsfulla.(昨夜遅く、廊下で数人が妙に動いていたの。秘密めいて見えた)」
ピン子:「Kan du peka ut vem?(誰か特定できますか?)」
ウェイトレス:「Nej, jag såg bara silhuetter… men en man verkade nervös, och ett par såg rädda ut.(いや、影しか見えなかった。でも、ある男性は神経質で、カップルは怯えているようだった)」

――ビジネスマン風宿泊客と用務員の会話。
ピン子:「Ursäkta, du var på rummet hela kvällen?(部屋にずっといましたか?)」
ビジネスマン:「Ja, jag jobbade. Inget annat.(ええ、仕事してただけ。)」
用務員:「Nej, jag såg honom gå ut i korridoren sent på kvällen. Han stannade inte länge men… han såg stressad ut.(いや、夜遅く廊下に出ていたよ。長くはいなかったけど、すごく焦っていた)」
ピン子(心の声):
「アリバイの矛盾やっぱり誰かが隠している」

――カップル客。
女性:「Vi var tillsammans på balkongen, men jag gick in först.(私たちはバルコニーにいたけど、私が先に部屋に入った)」
男性:「Nej, jag såg dig komma tillbaka senare än mig.(いや、君は私より後に戻ったはずだ)」
ピン子(心の声):
「二人の証言も食い違うみんな、ちょっとずつ嘘をついている?」

――ピン子、スマホでトメ子に連絡した
ピン子:「トメちゃん、全員怪しいの。矛盾だらけよ!」
トメ子:「怪しいと思ったら疑うの!感覚と矛盾を信じるのよ!」

ナレーション:
「宿泊客たちの小さな証言。
シナモンの甘い香りの裏に、誰もが触れようとしない苦味が隠されていた――。」

ピン子(心の声):
「みんな、少しずつ嘘をついている。でも、何を隠しているの?」

――ふと、思い出す。
「そういえば、男性が転落した断崖あそこなら何か手掛かりがあるかもしれない」
湖畔の風に、前夜の声や物音が蘇る。

――決意を固め、ピン子は断崖へ向かう。
父・クリスティアンが背後から静かに声をかける。
クリスティアン:「Pinco… gå försiktigt. Det kan vara farligt.(ピン子気をつけろ、危険かもしれない)」
ピン子:「Jag vet, pappa… men jag måste ta reda på sanningen.(分かってるわ、でも真実を確かめなきゃ)」

――湖畔の小道を進むピン子。靄が足元を覆い、シナモンの香りがかすかに漂う。
枝が衣服に触れ、湿った土に足を取られそうになりながらも、慎重に歩を進める。

――そして、ついに断崖の縁に立つ。
朝靄の向こうに、湖面が銀色に揺れている。
ピン子(心の声):
「ここあの夜、あの人が落ちた場所ね

背後に気配を感じる。黒い影が忍び寄る――


 ナレーション:

「湖面に反射する朝陽――しかし背後には、誰にも気づかれぬ黒い影が潜む。
黒い手が、静かに、ピン子に迫っていた――。」

ピン子(心の声):「ここあの時、あの人が落ちた場所ね

背後から、誰かの影が忍び寄る。
ピン子は気づかず、足元を崖の縁まで進める。

犯人(心の声):「Nu får du inte störa längre…(これ以上邪魔はさせない)」

突然、手がピン子の背中に触れ、一歩前に押されそうになる。
ピン子(悲鳴):「いやあっ!」

――その瞬間、父・クリスティアンの声が湖畔に響く。
クリスティアン:「Pinco! Kom hit nu!(ピン子!どこにいるんだ?)」

犯人は咄嗟に声に邪魔され、走り去る。
ピン子は崖の端で立ち止まり、足元を固めながら後ろの足音を聞く。
足音は遠ざかり、霧の中に消えていく。
:::

――父と再会。
ピン子は息を整え、経緯を話す。

ピン子:「Pappa… någon var bakom mig… försökte knuffa mig… men din röst skrämde bort honom!
(父さん背後から誰かが私を突き落とそうとでも、声に邪魔されて逃げたの!)」

クリスティアン(深く息をつき):「Pinco… det räcker med detta polislek.
(ピン子もう警察ごっこは止めなさい)」

ピン子はうつむきながらも、目に決意の炎を宿す。

ピン子:「Men… min vilja att avslöja mördaren försvinner inte.
(でも犯人を捕まえたい気持ちは、まだ消えないわ)」

父は静かにうなずき、湖面に漂う朝靄を見つめる。

クリスティアン(心で付け加える):「Min dotter… din känsla för rättvisa är ädel. Men överansträng dig inte.
(娘よその正義感は立派だ。しかし、無理はするな)」

――ナレーション
「甘いシナモンの香りが漂う湖畔。
危険は影に潜み、真実はまだ霧の中にあった――。」

――夕方、ベーカリー。
ピン子は消えたロールの跡を観察し、微妙にずれる宿泊客の証言を思い返す。

ピン子(心の声):
「まだ真犯人はわからない…でも、鍵は見つけた。
あの崖――最初の犠牲者が落とされた場所に、もう一度行く必要がある。
誰かが私を消そうとしたということは、私は真実に近づいてるってこと…そうよね…?」



4話予告ナレーション

「湖畔に潜む影。
犯人候補が断崖へ誰かを呼び出す――
ピン子は再び危険にさらされるのか?
シナモンロールの香りが誘う、新たな謎とは?」
『北欧断崖ミステリー 第4話 疑惑と断崖』

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登場人物紹介

Kallsson ・ピン子(Kallsson Pinco

日本とスウェーデンのハーフ、30代の女性。

聡明で観察力に優れ、直感が鋭い。

父との再会を機に、北欧の湖畔のホテルで滞在する。

Kallsson Kristian(カルソン・クリスティアン)

ピン子の父。スウェーデン人。

穏やかで落ち着いた人物だが、何かを深く考えているような表情を見せることも。

娘・ピン子を温かく見守る存在。

Lars Lindgren(ラーシュ・リンドグレン)

グランドホテル・カネルブッレバーデンのレセプショニスト。

若く端正な容姿で、物腰が丁寧。

ホテルの業務をしっかりとこなす一方で、独自のこだわりを持っているような人物。

田所トメ子(Tadokoro Tomeko

ピン子の日本での友人。

現場や情報をもとに的確なアドバイスをくれる頼れる存在。

ピン子の行動を支える通信手段として重要な役割を担う。

シェフ

ホテルの厨房を取り仕切る男性。

料理やホテル運営にこだわりがあるが、やや秘密めいた一面も。

画家風の老人

湖畔を好んで訪れる謎めいた人物。

静かで観察力があり、ホテル内でも一定の存在感を放つ。

ベテランウェイトレス

長くホテルで働く女性スタッフ。

周囲の状況に敏感で、宿泊客の様子をよく見ている。

ビジネスマン風宿泊客

ホテルに滞在する男性客。

落ち着いて見えるが、行動や証言には何か秘密があるかも

カップル客

ホテルに滞在する男女。

表面的には仲睦まじく見えるが、状況や発言に微妙なズレがある。


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