「Kallsson (カルソン)・泉・ピン子は見ちゃった! 北欧湖畔のシナモンロール殺人事件 ~第5話・最終話」
【火曜サスペンス劇場風 第5話】
『北欧断崖ミステリー ~Kallsson・泉・ピン子は見ちゃった!~ 断崖絶壁の告白』
――断崖の霧。
ピン子は木立の陰に身を潜め、息をひそめて耳を澄ませる。
湖面に波音が響き、冷たい風が断崖の岩肌を叩く。
謎の人物(低い声で):
「Du pratar för mycket, gamle man…(あんたは喋りすぎだよ、じいさん…)」
老人(必死に):
「お前…まさか――」
謎の人物(語気を強めて):
「Tyst!(黙れ!)」
霧がわずかに晴れ、人物のシルエットが浮かび上がる。
背丈、肩のライン、首に巻かれたスカーフ――
ピン子の脳裏に、ホテルのロビーで見かけたあの人物の姿がよぎった。
ピン子(心の声):
「(今の影…あの人に似ていた。でも、どうして…?)」
老人の足元の石が崩れる音がし、危うく身体が前に傾く。
断崖の下から、湖面を叩く波の音が不気味にこだまする。
――木立の陰から息をひそめるピン子。
湖畔に現れた黒い影――ホテルのレセプショニスト、ラーシュ・リンドグレン――が、崖の端で静かに立ち、低い声で語りかける。
ラーシュは崖の端に立ち、低く熱心に語り始める。
ピン子は木立に隠れたまま、息を殺して聞き耳を立てる。
ラーシュ(独り言のように):
「Våra kanelbullar måste vara perfekta! Inte för mycket socker, inte för lite kanel. Allt ska vara exakt.(我々のシナモンロールは完璧でなければならない!砂糖は多すぎても少なすぎてもダメだ、シナモンも同じ。全て正確でなければならない)」
ピン子(心の声):「…一体、こんなことで…?」
ラーシュはさらに声を強める。
「Och när han satte salt istället för socker… jag kunde inte tillåta det…(あいつが砂糖の代わりに塩をかけたとき…許せなかった…)」
ラーシュ(冷ややかに、しかし狂気を帯びて):
「Jag… jag kallade hit honom. Och jag… jag tryckte honom över kanten själv.
(俺は…あいつをここに呼び寄せた。そして…自分の手であいつを崖の向こうへ押したんだ…)
「Men gubbe… aldrig i min vildaste fantasi kunde jag föreställa mig… att just du skulle stå där… och bevittna allt med dina egna ögon!
(しかし、じじい。まさかお前があの場所に立ち、すべてをこの目で目撃していたとは――夢にも思わなかったよ!)」
老人はひるまず、必死に言葉を続ける。ピン子の存在には全く気づいていない。
ピン子(心の声):「身を隠していないと…完全に見つかってしまうわ…!」
ピン子は影に隠れ、老人の行動を見守るが、突然スマホにLINE通知音が鳴る。
ピン子(小声で):
「しまった…!」
その音に気づいたラーシュがピン子の隠れ場所を察する。
ラーシュ(冷たい目で):
「Så, du är här också…(なるほど、お前もここにいるのか…)」
ピン子は木立の陰に身を潜めていたが、突然、ラーシュの冷たい手に肩を掴まれ、強引に引きずり出される。
ピン子(小声で):
「S-sluta...! (や、やめて…!)」
老人も必死に抵抗し、腕を振りほどこうとするが、非力な体ではラーシュの圧倒的な腕力には太刀打ちできない。
老人(必死に):
「Släpp mig... släpp mig! (離せ…離せぇ…!)」
二人は足元の岩場で踏ん張ろうとするが、崖の縁に近づくにつれ、足場は不安定になり、岩がわずかに崩れる。
ピン子(心の声):
「まずい…このままじゃ二人とも…!」
ラーシュは冷酷な目で二人を睨みつけ、崖の端まで押し込む。二人は必死に抵抗するが、女性と老人の力では到底かなわず、崖っぷちに追い詰められていく。
ピン子の足元の小石が崩れ、バランスを崩しかける。老人も肩を押され、前に倒れそうになる。
ピン子(小声で):
「Fan... helvete... jag håller på att falla!… (くそ…落ちそう!)」
迫りくる恐怖、冷たい風に叩かれる断崖の岩肌、下から響く湖面の波音――すべてが二人の恐怖を煽る。
その瞬間、霧の中から父・クリスティアンとスウェーデン警察が現れる。
警官:「Stanna!(止まれ!)」
父:「Pinco! Håll dig tillbaka!(ピン子!下がるんだ!)」
――警察と父の出現で、ピン子と老人は間一髪で崖から救われる。
ラーシュは捕まえられそうになるが、突然立ち止まり、深く息を吸う。
彼の目には狂気と情熱が光る。
ラーシュ(大真面目に、静かに語り始める):
「Jag har arbetat här för kanelbullar… för deras doft, deras smak. Jag har offrat allt för dem!
(俺はこのホテルでシナモンロールのために働いてきた…その香りと味のために。すべてを捧げてきた!)」
ラーシュはゆっくりと両手を広げ、崖の縁に立つ。
警察が制止の声を上げる。
警官:「Nej! Vänta!(ダメだ!待て!)」
父・クリスティアン:「Pinco… håll dig tillbaka!(ピン子、下がれ!)」
だがラーシュは耳を貸さず、湖面を見つめて言う。
ラーシュ:
「Perfektion… utan den perfekta kanelbullen kan jag inte leva längre!
(完璧なシナモンロール無しでは、もう生きている意味がない)」
――その瞬間、時間がゆっくりと流れ始めたかのように、ラーシュの体が崖の縁を越える。
彼の手が岩の端をかすめる。
ピン子の瞳に、狂気と決意が入り混じった彼の表情がはっきりと映る。
風が彼のスカーフを巻き上げ、霧がゆっくりと舞い上がる。
湖面の波が崩れ落ちる前に、光が水面に反射して一瞬、まぶしい閃光のように輝く。
ラーシュの体が空中で一瞬止まったかのように見え、彼の影が湖面に長く伸びる。
ピン子の息が凍り、父・クリスティアンの手が届かない距離で空気が震える。
そして、静寂が訪れる直前に、湖面に彼の体が落ちる水しぶきが高く舞い上がる。
波紋が広がり、風と霧が一瞬止まり、世界は息をひそめたように静まり返る――。
ピン子は胸に手を当て、深く息をつく。湖面に消えたラーシュの影を、ただ見つめるしかなかった。
父・クリスティアンがそっと肩に手を置く。
クリスティアン:「Pinco, är du oskadd? Tur att jag hann i tid.」
(ピン子、無事か?間に合ってよかった)
高鳴る胸をおさえようと、ピン子はしばらく父の胸に抱かれていた。
その鼓動は彼女の震える心を静めるように伝わり、冷えた空気の中にかすかな温もりを灯していた。
湖面に漂う影はやがて夜に溶けていき、二人を包む静寂だけが残った。
ピン子は湖面に沈むラーシュの影を見つめながら、深く息をついた。
父・クリスティアンがそっと肩に手を置き、ピン子の腕を優しく引く。
二人は慎重に足元を確かめながら、ホテルへ戻っていった。
ホテルのラウンジに着くと、差し込む朝日とほのかなシナモンの香りが、心の緊張を少しだけほぐしてくれる。
ピン子は席に座り、温かいシナモンロールを口に運ぶ。
ピン子(心の声):
「このシナモンロールのために、男一人が命を懸けたのね…」
スマホを取り出し、田所トメ子に電話をかける。
呼び出し音のあと、トメ子が応答する。
トメ子:「もしもし、ピン子!?大丈夫?」
ピン子(声を震わせながら):「うん…でも、本当に信じられないことがあったの…」
トメ子(息をのむが、どこか確信したように):「まさか…やっぱり、あの人のこと?」
ピン子:「黒い影の男…ラーシュ・リンドグレン。あのホテルのレセプショニストよ…完璧なシナモンロールのために…あの人が命を懸けて…」
トメ子(深く息を吐きながら):「そう…そんな気がしてたのよ」
ピン子:「うん…でも父と警察が間一髪で助けてくれたの。もう、本当に…」
トメ子(静かに、少し安堵して):「シナモンロールは正義よ!」
ピン子: 「でも、すっごいカッコいい人だったんだよ。モデルでもおかしくないような。なんかもったいなかったなあ」
ピン子は小さく笑いながらも、まだ胸の高鳴りが収まらないのを感じていた。
「こんなに怖い思いをしたのに、どうして少し楽しい気持ちになれるんだろう…」
湖面に映る朝日と揺れる木々の影を遠くに眺めながら、ピン子は思わず肩をすくめる。
ピン子:「うん…北欧での冒険は、もうお腹いっぱいってくらい味わったわ…」
トメ子(小さく笑いながら):「もうこれ以上はデザートいらないわね」
ラウンジの静かな朝に、恐怖と安堵が入り混じった心をゆっくり落ち着かせながら、ピン子はしばらくそのまま湖面を眺めていた。
冒険の余韻だけが、静かに水面に揺れる光のように残っていた。
数日間、ピン子と父はホテルで穏やかな時間を過ごし、湖畔を散歩したり、北欧の静かな街並みを楽しんだ。
その間も、ピン子の心にはあの崖の記憶が消えることなく、静かに胸の奥に刻まれていた。
数日間の滞在のある日、ピン子と父・クリスティアンはホテルの温泉に向かった。
木造の浴場は温かい蒸気に包まれ、外の冷たい風とは対照的に、体の芯からほぐれるような心地よさが広がる。
ピン子は湯気に包まれながら、静かに湖面を望む大きな窓に目を向けた。
朝日に照らされた湖面がキラキラと光り、霧の中に揺れる木々が幻想的な景色を作っている。
クリスティアンが穏やかに笑い、ピン子の肩に手を置く。
クリスティアン(スウェーデン語):
「Känn värmen, Pinco. (温かさを感じるんだ、ピン子)」
ピン子は目を閉じ、深く息を吸い込む。
心の中で今日までの出来事を振り返り、少しずつ緊張が解けていく。
ピン子(心の声):
「崖の恐怖も、ラーシュの狂気も…今は、この温かさに溶けていくみたい…」
湯面に浮かぶシナモンの香りが、温泉の湯気とともにほのかに漂う。
ピン子はふっと笑みを浮かべ、父を見やる。
滞在最終日、空港で荷物をまとめ、父と向かい合う。
クリスティアン:「Ta hand om dig, Pinco. Och hälsa mamma från mig.」(気をつけて帰るんだ、ピン子。そしてお母さんによろしく伝えてくれ)」
ピン子は父の手を握り、深くうなずく。
ピン子(心の声):
「こうやって、私は前に進む…これが私のやり方!」
ピン子は搭乗ゲートをくぐり、北欧の湖畔を後にした。
ナレーション:
「北欧湖畔のシナモンロール温泉ホテル。
甘美な香りに包まれた日常の裏で、真実と狂気は、湖面に吸い込まれる――。」
『北欧断崖ミステリー ~Kallsson・泉・ピン子は見ちゃった!~完』
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登場人物紹介
Kallsson 泉・ピン子(Kallsson Pinco)
日本とスウェーデンのハーフ、30代の女性。
聡明で観察力に優れ、直感が鋭い。
父との再会を機に、北欧の湖畔のホテルで滞在する。
Kallsson Kristian(カルソン・クリスティアン)
ピン子の父。スウェーデン人。
穏やかで落ち着いた人物だが、何かを深く考えているような表情を見せることも。
娘・ピン子を温かく見守る存在。
Lars Lindgren(ラーシュ・リンドグレン)
グランドホテル・カネルブッレバーデンのレセプショニスト。
若く端正な容姿で、物腰が丁寧。
ホテルの業務をしっかりとこなす一方で、独自のこだわりを持っているような人物。
田所トメ子(Tadokoro Tomeko)
ピン子の日本での友人。
現場や情報をもとに的確なアドバイスをくれる頼れる存在。
ピン子の行動を支える通信手段として重要な役割を担う。
シェフ
ホテルの厨房を取り仕切る男性。
料理やホテル運営にこだわりがあるが、やや秘密めいた一面も。
画家風の老人
湖畔を好んで訪れる謎めいた人物。
静かで観察力があり、ホテル内でも一定の存在感を放つ。
ベテランウェイトレス
長くホテルで働く女性スタッフ。
周囲の状況に敏感で、宿泊客の様子をよく見ている。
ビジネスマン風宿泊客
ホテルに滞在する男性客。
落ち着いて見えるが、行動や証言には何か秘密があるかも…?
カップル客
ホテルに滞在する男女。
表面的には仲睦まじく見えるが、状況や発言に微妙なズレがある。
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♪♪ 次回予告
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11月3日(月)ごろ公開予定
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