『鵺ノ夢――金田一ポン助霊怪事件帖』第壱章

 


鵺(ぬえ)は、日本の古典『平家物語』に登場する怪異。
猿の顔、狸(あるいは虎)の胴、蛇の尾を持つとされ、
夜ごと帝の寝所に黒雲とともに現れたという。
その鳴き声はトラツグミに似ており、
かつてその声を聞くことは「不吉の前兆」とされた。
鵺とは、姿形が混ざり、正体の定まらぬもの――
すなわち、“あわい”に生きる存在の象徴である。


【登場人物】

金田一ポン助(治田笑男)
自称・名探偵にして霊媒師。飄々としていて掴みどころがない。
本人は「幽霊はいますけど、だいたい寝ぼけてるんですよ」と言う。
推理よりも感じるタイプで、時に核心をぼそりとつぶやく。

水無瀬夕子
天鳴寺の尼僧。理性的で信仰心が強いが、弟の死の記憶に囚われている。
鵺の声に「湊の呼ぶ声」を感じる。

蓮台院(れんだいいん)
天鳴寺の住職。温厚に見えるが、封印の術を継ぐ秘密を持つ。
鵺伝説を信仰の核としてきた人物。

木島刑事
現実主義者の刑事。超常を否定しながらも、次第に恐怖に呑まれる。
最後には見てしまう

沙門(しゃもん)・律道(りつどう)
若い修行僧。いつも一緒に行動し、兄弟のように仲が良い。

円正(えんしょう)
天鳴寺の古参僧。保守的で新参者を嫌う。

岡崎妙蓮(おかざき・みょうれん)
女性民俗学者。鵺伝説を研究するため寺に滞在している。
冷静な観察者のようで、実はポン助を試している節も。



『鵺ノ――金田一ポン助霊怪事件帖』

 夢と現の狭間に揺れる鵺のささやき


章 笑う死体

奈良と和歌山のあいだ、吉野の山をさらに分け入った先に、
小さな集落〈雲ヶ原(くもがはら)〉がある。
地図にも載らぬその谷は、
夏でも薄い霧が立ちこめ、昼なお暗い。
村人のあいだでは昔からこう言われている。
――あの寺は夜になると鳴く、と。

その寺の名は、天鳴寺(てんめいじ)
山の奥にひっそりと建ち、
風に揺れる杉の梢の間から、いつも微かに鐘の音が漏れている。
人はそれを風鈴のようだと言い、
またある者は、夜ごとの怪鳥の声だと恐れた。

その日の昼下がり、山道をひとり登ってくる男がいた。
背中には妙に派手な風呂敷包み、
頭には麦わら帽子、首には数珠ともネクタイともつかぬ紐。
男は汗を拭いながら、山の空気を胸いっぱいに吸い込むと、
満足そうに呟いた。

「うん、やっぱりこの辺は霊圧が湿ってますねぇ。」

その声に、道端で草を刈っていた老婆が顔を上げた。
「あんた、どなたね?」
男はにっこり笑って、胸を張った。

霊媒師金田一ポン助です。」

老婆はしばし黙り、それから首をかしげた。
……なんて?」
「いやですなあ、耳の遠い方には不利な名前でして。」
男は笑って帽子を取った。
「ええ、ほんとうは治田笑男(はるた・えみお)と申しますが、
みなさんには金田一ポン助で通してます。血筋の関係でね。」

「金田一って、あの……?」
「そう、あの。けど本人はまだDNA鑑定を渋ってましてねぇ。」

老婆はよくわからぬまま笑い、
――金田一ポン助は、軽い足取りで寺への石段を登っていった。


寺の門前には、一匹の白猫が寝そべっていた。
ポン助はしゃがみ込み、猫の額を撫でる。
猫は一瞬こちらを見上げ、尾をぴんと立てて去っていった。
その尾の動きに、どこか蛇のような艶があった。

……なるほど、歓迎はの系統ですか。」
彼はにやりと笑うと、鐘楼を見上げた。
風が吹き抜け、古い鐘がかすかに鳴る。
「ここ、夜が鳴きそうですね。」

「何者だ、貴様。」

突然、低く、苔むした鐘のような声が背後からした。
振り返ると、袈裟の襟をきちんと整えた僧が立っていた。
骨ばった頬、細い眼差し。
年は五十ほどか――円正(えんしょう)と名乗るその僧は、
天鳴寺の古参であり、規律にうるさい人物と評判だった。

「観光か?」
「いえいえ。」ポン助は両手を合わせて拝む。
「この辺りで霊気の鳴る場所を探してましてね。
あ、もしかしてこちらの鐘が夜になると鳴くって噂、本当ですか?」

円正は眉をひそめた。
「俗説に惑わされるな。あれは風の音だ。
霊など、我々には無縁。」
「おお、では極楽の風ですか。」

ポン助のとぼけた返しに、円正は深くため息をついた。
……宿坊に泊まるなら勝手にせい。ただし、寺の中をうろつくな。
修行の妨げになる。」

「はいはい、肝に銘じます。」
ポン助はぺこりと頭を下げ、
去っていく円正の背を見送りながら呟いた。

「うーん、真面目な人ほど見えやすいんですけどねぇ。」

 

寺の小坊主が門前で出迎えた。
「どちら様でございましょう?」と問うと、男は胸を張って答えた。

「わたし、金田一ポン助と申します。霊媒師です。ちょいと(ぬえ)”と話がしたくてね。」

小坊主は目を瞬かせた。
「え、き、金田一……? あの、金田一耕...――

「ご存じで? そう、その血筋。ええ、遠いけれど血は流れておりましてね。
 ま、正確には曾祖母のいとこの義弟の……いや、まあ細かい話はいいでしょう。」

と、男――金田一ポン助は、まるで本気なのか冗談なのか分からぬ笑みを浮かべた。

そこへ住職が現れた。
小柄だが鋭い目をした老僧で、眉の白さが印象的だった。
「あなたが……ええと、治田さん、でしたか?」

その名を聞くや、男は慌てて手を振った。
「おっと、それは世俗の名でしてね。治田笑男(はるた・えみお)は戸籍上の話。
 どうか、金田一ポン助でお願いしたい。
 あれは私の霊的屋号なんです。呼び間違うと、霊感がずれる。」

……ずれる?」
「はい。だいたい二寸ほど。」

住職は沈黙した。小坊主は吹き出しそうになるのを必死にこらえた。


寺の本堂には、奇妙な静けさがあった。
香の煙が細くたゆたい、外では山風が鳴っている。
それがふと、人の嗤うような声に聞こえた。

ポン助は鼻をひくつかせた。
「うん、これは……ただの死の匂いじゃないね。
 誰かの夢の中の匂いだ。」

「夢の中?」と小坊主が呟く。

ポン助は頷いた。
「そう。夢の中で誰かが死んだ。で、その夢が現実に滲み出している。
 こういうの、困るんですよね。寝ぼけた死体は話が通じない。」

「ここ、夜が鳴きそうですね」と呟く声に、
傍らの小坊主が不安げに振り向く。

「先生、夜が鳴くとは……?」
「ええ、夜ってのは、黙ってるようで意外とおしゃべりなんですよ。」

そのとき、廊下の奥から歩いてきたのが、
尼僧姿の女性――水無瀬夕子(みなせ・ゆうこ)だった。

三十歳前後。
細面に淡い笑みを浮かべ、
どこか気品を漂わせている。
だがその目の奥には、言葉にできない翳りがあった。

「こちら、金田一……えっと……
「ポン助です。金田一ポン助。」
……本名は?」
「治田笑男(はるた・えみお)ですが、そう呼ばれると寿命が縮む気がするので。」

夕子は一瞬まばたきをし、それから静かに微笑んだ。
「変わったお名前ですね。」
「いえいえ。笑う門には福が来るって言うでしょう? 
笑男ですから、福の親戚みたいなものです。」

彼の軽口に、夕子はほんの少しだけ肩の力を抜いた。
この寺の空気には、長い間、哀しみが沈殿している。
彼女の弟・湊(みなと)が数年前に亡くなって以来、
その笑顔はすっかり消えていた。

「あなた、どうしてこの寺に?」
「霊が呼びましたので。」
……霊、ですか。」
「はい。まあ、天鳴寺さんは声の寺だと聞きまして。」
「声の寺?」
「ええ。夜になると、鳴くんでしょう?」

夕子の表情がわずかに硬くなった。
……誰から、その話を?」
「猫です。」
……猫、ですか。」


そのやり取りを見ていたのが、先ほど門前で鉢合わせした古参僧・円正(えんしょう)だった。
白い眉を吊り上げ、杖を突いて近づいてくる。

「夕子、そんな胡散臭い者と無駄話をするな。」
「円正さま、この方はお客様で――
「客などいらぬ。ここは修行の場だ。」

ポン助はぺこりと頭を下げた。
「修行中のところ失礼しました。
ちょっと鳴き声を聞きに来ただけでして。」

「ふざけるな。」
円正の声は冷たいが、どこか怯えが混じっていた。
「あの声を聞いた者は……みな、笑いながら死ぬ。」

その言葉に、夕子の手がわずかに震えた。
ポン助は首を傾げ、
「笑って死ねるなんて、いいじゃないですか。」と、とぼけたように言った。

円正は目を細め、
「お前……冗談で済まぬものを呼ぶぞ。」
「呼ばれて来たんですけどね。」

一瞬の沈黙。
円正は何かを言いかけ、
そのまま杖を鳴らして去っていった。

夕子は小さくため息をついた。
「ごめんなさい。あの方、最近ずっと不眠で……
夜な夜な鐘の音が聞こえると、怯えるんです。」
「鐘は鳴らしてないのに?」
「ええ。」

ポン助は頷き、
「それは困りましたね。幽霊の夜勤かもしれません。」

夕子は思わず吹き出した。
……ふふ、変な人。」
「よく言われます。ありがたいことです。」

 

――ポン助が夕子に案内され、
宿坊の縁側で猫を撫でながらお茶をもらっていたときだった。

ふと、庭の方から、
木魚の音がふたつ、まるで掛け合うように響いた。

……不思議なリズムですね。」
「沙門と律道ですよ。」と夕子が言う。
「二人とも修行中の若い僧です。
あの子たち、息がぴったりなんです。まるで影と影みたいに。」

庭を見ると、
朝の光を浴びながら、ふたりの若僧が読経をしていた。

どちらも細身で、まだ少年の面影を残す。
片方――沙門(しゃもん)は快活そうで、
経を唱えながらも口元に柔らかな笑みを浮かべていた。
もう一方――律道(りつどう)は静かで、
その唇の動きすら影のように控えめだった。

二人の声が交互に重なり、
まるでひとつの呼吸のように響く。
経が終わると、沙門が軽く笑って律道の肩を叩いた。
その笑顔は太陽のようで――
だが律道はほんの一瞬、哀しげに視線を伏せた。

「いい子たちですね。」
ポン助が言う。
夕子は小さく頷きながら、
「円正さまは、あの二人をよく叱っていました。
修行中に笑うなって。
でも、あの子たちの笑顔を見ていると、
この寺にもまだ人の温かさが残っている気がして……

ポン助は茶をすすりながら、
「笑いって、魂の隙間から漏れる光ですからねぇ。」
と、のんびり呟いた。

そのとき、沙門がこちらに気づき、
明るく手を振ってきた。

「お客さまですか!」
「はい、少し道に迷いまして。」とポン助。
沙門は笑って、「僕らも迷ってばかりですよ、修行も。」と返した。

律道がその隣で静かに一礼した。
その目だけが、どこか遠くを見ているようで――
ポン助はなぜか、背筋に一筋の寒気を覚えた。

「お二人は兄弟のようですね。」
「ええ、そう見えますか?」と沙門が笑う。
「よく言われるんです、似てるって。
でも血はつながってないんですよ。」

夕子が微笑む。
「二人は、互いに補い合うような存在なんです。
沙門が外の声を聞き、律道が心の声を聴く。
この寺に来てから、いつも一緒です。」

ポン助は猫の背を撫でながら、
「なるほど、表と裏、昼と夜。
混ざるには、ちょうどいい組み合わせですねぇ。」

「混ざる?」
「いえいえ、独り言です。」

そう言って、ポン助は茶をもう一口すすった。

 

夕方、ポン助は住職・蓮台院に連れられ、寺の鐘楼立ち寄ったポン助は、鐘の表面をなでながら、その金属の冷たさに、彼は小さく息を呑む。
「ここ、何かがこびりついてますね。……お経の残響じゃない。」

「お経ではない?」と一緒に連れ立っていた蓮台院が問う。
「はい。もっと……笑い声に近いです。」

そのとき、遠くの空で雷が鳴った。
まるで誰かが冗談を聞いて笑ったような、湿った音だった。


夜。
霧が濃くなり、鐘楼の影が長くのびた。
その奥から、「ヒョウ……ヒョウ……」と奇妙な声が響いた。
トラツグミにも似ていたが、もっと低く、ねばつくような音。

金田一ポン助は一人つぶやいた、

「あーあ。やっぱり来ると思ったんですよ、鵺さん。」
ポン助は頭を掻きながら呟いた。
「さて、あなたは誰の夢を食べたんでしょうね。」

 

誰も見ていないはずの鐘楼の上で、
一瞬、黒い影が動いた気がした。


朝霧が、寺の回廊を包んでいた。
僧たちが朝の勤行を終えたころ、
一人の小僧が鐘楼へと向かっていた。
昨夜、妙に風が強く、鐘の音が途中で途切れたのだという。
「綱が切れたのかもしれません」と言いながら、
彼は半ば眠たげに石段を上った。

鐘楼は境内の最も高い場所にあり、
そこからは雲ヶ原の村全体が見渡せる。
木の床は夜露で濡れ、冷たい光が差し込んでいた。
そして――その中央に、円正がいた。

鐘の下、
大きな縄の綱に背を預けるようにして座り、
顔は正面を向いたまま、笑っていた。

まるで何かを見上げ、歓喜のうちに祈りを捧げているような微笑。
しかしその喉には、綱の痕がくっきりと残っていた。
手は合掌の形のまま固まり、
足も、微かに宙に浮いている。
床には濃い獣臭が残り、
傍らには蛇の抜け殻と、黒く縮れた毛が散らばっていた。

鐘の内部からは、低い音がまだ響いていた。
風もないのに、ゆっくりと揺れている。

「ヒョウ……ヒョウ……

それは、金属が鳴る音とも、
生き物の声ともつかぬ響きだった。

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鐘楼の下に集まった僧たちのざわめきが、
朝の霧の中で溶け合っていた。

「綱に……絡まって……
「笑って……いや、笑ってる……!」

合掌しながら震える若い僧たちの中で、
住職・蓮台院が青ざめた顔をして立ち尽くしていた。
その背後から、山道を登ってくる足音がした。
革靴の音。寺には似つかわしくない乾いた響き。

「おい、どけどけ。警察だ。」

現れたのは、グレーのスーツに濃紺のネクタイ、
無精髭を残した男――木島刑事
雲ヶ原駐在所から呼ばれ、
山道を三十分歩いて駆けつけてきたところだった。

「また妙な騒ぎだな。」
木島は額の汗を拭い、死体を見るなり顔をしかめた。
……吊り? いや、床に足がついてるな。」
「円正さんが……朝の鐘を撞きに……」と、若い僧が泣きながら答えた。
木島は懐から手帳を出し、低く唸る。
「ロープ痕、現場に抜け殻、毛の付着物……動物の仕業にしちゃ器用すぎる。」

そのとき。
背後からのんびりした声が割って入った。

「刑事さん、笑って死ぬってのは犯罪ですかね?」

木島が振り返ると、
そこには麦わら帽子の男が、
朝の霧の中で湯飲みを片手に立っていた。
金田一ポン助である。

「誰だ、あんた。」
「霊媒師です。あと名探偵。あと猫派。」
……職業じゃないな。」
「いやぁ、最近は兼業の時代ですから。」

木島はため息をつき、
警察手帳を開きながら一歩前へ出た。
「俺は木島。和歌山県警・山間分署の刑事だ。
この辺で起きる事件はたいてい俺の担当だ。」

「ははぁ、頼もしい。
それで、どちらの界隈の捜査を?」

「界隈?」
「この世か、あの世か、って意味ですよ。」

木島は目を細めた。
「悪いが、あんたが関わるとロクなことにならなそうだな。」

ポン助は笑って肩をすくめた。
「よく言われます。けど幽霊さんたちは案外、私のファンですよ。」


しばらくして、
円正の遺体は鐘楼から運び出された。
夕子が白布をかけながら、唇を噛んでいた。

「昨夜……あの方、私に音がするとおっしゃっていたのです。
鐘の奥から、人の声がすると。」

「声?」木島が顔を上げる。
「誰の声だ?」
「わかりません。ただ、笑っていたと……。」

ポン助は鐘楼の下を覗き込み、
床板を指でなぞった。
指先についた黒い粉末を嗅ぎ、
小さく頷いた。

「この匂い、わかりますか?」
「なんだ?」木島が眉をひそめる。
焼けた声の匂いです。」

……は?」
「声ってのはね、想いが強いと焦げるんです。
恨みとか、恋とか、祈りとか。」

木島は呆れたように手帳を閉じた。
「オカルトは結構だ。
俺は事実しか扱わん。」

「じゃあ、私は事実になり損ねたことを扱います。」
ポン助はにやりと笑った。
「この寺、夜になると鳴くんでしょう?
それ、もう鳴き始めてる。」


その後、寺の裏手で見つかった
古びた石塔の前に貼られた封印札――
それが、無惨に破られていた。
墨の文字は滲み、赤い印が剥がれ落ち、
風に揺れる紙片がかすかに鳴った。

鵺塚……
蓮台院が呟く。
「封印が、乱れたのかもしれぬ。」

沙門と律道の二人が立ちすくんでいた。
互いに手を取り合い、怯えたように震えている。
円正の厳しい叱責に日々耐えてきた彼らの顔に、
初めて恐怖の色が差していた。

ポン助は封印札を拾い上げ、
木島に目を向けた。
「これ、証拠品にはなりませんよ。
夢の領収書みたいなもんですから。」

木島はうんざりしたように息を吐く。
「お前な……何者なんだ、本当に。」
「金田一ポン助です。」
「本名で答えろ。」
「治田笑男です。……けどその名前、呼ばれると寿命が縮む気がしてね。」

木島は苦笑した。
「なら勝手にしろ。」
「はい、勝手にしてます。」


その夜、
鐘楼の上で、再び音が鳴った。

「ヒョウ……ヒョウ……

風もないのに、鐘がゆっくり揺れている。
誰もいない境内を、
一匹の白猫が横切った。
その尾が、月明かりの中で一瞬、蛇のように光った。

ポン助は縁側で湯をすすりながら、
静かに呟いた。

「笑って死んだ人、泣いて生きてる人。
どっちが幸せですかねぇ……。」

鐘の音が、答えるように鳴った。

「ヒョウ……ヒョウ……

 

章予告:鵺の哭く夜

夜の天鳴寺に、再び「ヒョウ……ヒョウ……」という声が響く。
若僧・律道の失踪、沙門の笑顔のままの倒壊。
夕子は夢の中で弟・湊の囁きを聞き、手には蛇の抜け殻。

金田一ポン助は飄々と現場を歩きながらも、
封印された魂たちの悲鳴と笑いが混ざり合う異様な気配を感じ取る――


 

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