「明智小誤郎と夢幻の美女」 ― 夢幻を纏う殺人者 ― 第3話
第3話 夢幻の迷宮「影を抱く絵具」
セーヌ川の朝靄
セーヌ川を包む朝靄は、薄いレースの布をかけたように白く揺れていた。
川沿いのカフェには、片手にコーヒー、片手にスケッチブックを持つ芸術家たちが三々五々集まる。
その中に、ひときわ異彩を放つ二人がいた。
ひとりは和服姿の明智小誤郎。
もうひとりは――黒いコートに包まれ、川の光にほどけるように立つチハルーナ。
風に髪をほどかれ、川面に目を落とす横顔は、朝靄よりも淡く、触れれば溶けそうなほど儚く正に夢幻の美女という呼び名こそ相応しいものだった。
セーヌ川沿いのカフェには、まだ朝靄の名残が漂う。
川面に映る街灯の光が波紋のように揺れ、辺りは薄紫色に包まれている。
その静寂を破るように、画商アンリ・デュヴァルがテラス席に歩み寄った。
彼はパリの画商界では著名で、才能ある若手画家の発掘に定評がある。
昨日の事件の余韻を残した顔には、寝不足と緊張が刻まれていた。
「Chiharuna, vous allez bien ?(チハルーナ、大丈夫か?)」
その声は、川の霧と同じ温度で広がり、どこか現実の音とは思えないほど遠くに届いた。
チハルーナは顔を上げる。夢幻の美女のような姿勢は、朝霧に浮かぶ人形のようで、細い指先がマグカップの縁に触れただけで、光がさざめくように見える。
「Je suis… un peu fatiguée, mais ça va.(少し疲れているけれど……大丈夫)」
その声は柔らかく、音の輪郭はぼやけている。霧の中で溶けていくさざ波のように、アンリの耳に届いた。
「Hier… c’était… terrible.(昨日のことは……酷いことだったな)」
チハルーナは少し目を伏せ、眉間に淡い影を落とす。
「Oui… je n’arrive toujours pas à croire…(ええ……まだ信じられなくて…)」
微かに首を振る彼女の仕草は、見ている者の胸を締めつけた。
アンリはしばし黙り、手元のスケッチブックに目をやる。
そこに残る青や深紫の滲みは、まだ乾ききらず光を吸い込んでいた。
まるでチハルーナの心の奥底の震えまで映し出すかのようだった。
「Vous devez prendre soin de vous. Vous ne pouvez pas affronter tout cela seule.(自分を大事にしなきゃ。ひとりで全部抱え込むわけにはいかない)」
その声に、チハルーナはふっと肩を落とし、目を細める。
霧の向こうから差し込む光のように、わずかに安心が彼女の中を通り抜けた。
「Merci, Henri…(ありがとう、アンリ……)」
彼女の口元に浮かんだ笑みは、現実に触れた夢のように儚く、川霧の向こうに漂う街の音に溶けていった。
「ふむ、実に芸術的な朝ですな!」
明智小誤郎は当然、日本語で得意げに叫ぶ。
「これはきっと“事件が次の段階へ流れる”という前兆!」
チハルーナはため息をついた。「明智さん…今日もそれですか…」
モンマルトルの坂道
その日の午後、モンマルトルの坂道で、新たな犠牲者が見つかった。
被害者はチハルーナを古くから知る画家仲間、フランソワ・ルブラン。
アトリエの扉は内側から鍵がかかっており、外部の侵入はほぼ不可能。
しかし――机の上の大きなキャンバスが倒れ、その下敷きになって命を失っていた。
モンマルトルの狭い石畳の坂道を、警察車両が低速で上っていく。朝の柔らかな日差しはまだ街を温めきれず、石畳は湿った影を落としていた。
ラヴォワ警部は助手席で車窓の外を見つめ、眉を寄せる。
「Encore un… accident, Michel…
(また“事故”か……)」
車がフランソワ・ルブランのアトリエ前で停まると、二人は無言で降りた。
現場は、古いレンガ造りのアトリエ前。扉はしっかりと閉ざされ、鍵は内側から掛かっている。窓からはまだ朝靄の名残がわずかに流れ込み、室内の色彩を淡く染めていた。
ラヴォワ警部はゆっくりと扉を押し開け、目を細めて中を見渡す。
机の上に倒れたキャンバス。その下に、昨日の事件同様、被害者の無惨な姿があった。血の色はまだ乾ききらず、淡い朝の光に反射して微かに輝く。
「Encore un ‘accident’… qui n’a rien d’un accident.
(また“事故”か……事故には見えないが)」
警部は低く呟き、ミシェル刑事に目を向ける。
ミシェルは被害者の周囲を慎重に観察しながら答える。
「Oui… le système électrique a été déclenché à distance… peut-être.
(電動装置が遠隔で作動した……可能性もある)」
警部は机の下や倒れたキャンバスの位置をじっと見つめ、手袋をはめた手を顎に当てる。
「Si c’est vrai… quelqu’un a prévu cela avec soin.
(もしそうなら……誰かが計画的にやったということだ)」
ミシェルは床に散らばる紙や絵の具の跡を指差す。
「Regardez… la disposition des objets. Rien n’a été déplacé après le décès.
(見てください……物の配置です。死後に動かされた様子はない)」
ラヴォワ警部は深く息をつき、目を閉じて思案する。
「Cela ne ressemble pas à un simple hasard…
(単なる偶然とは思えんな…)」
ミシェルは扉の外を警戒しながら、さらに続ける。
「Et la porte est verrouillée de l’intérieur… personne n’aurait pu entrer facilement.
(扉は内側から施錠されている……簡単に誰かが侵入できるはずがない)」
警部はゆっくり頷き、現場をもう一度見渡す。
「Alors, il nous faut considérer… la manipulation à distance, ou un mécanisme ingénieux.
(ならば考慮すべきは……遠隔操作、あるいは巧妙な仕掛けだ)」
二人は互いに無言で視線を交わす。現場の静寂は、昨日から続く連続事件の余波でさらに重苦しく感じられた。石畳の坂道の向こうから、通りを行き交う人々の声やカフェの食器の音がかすかに届く。だが、アトリエの中は時間が止まったように静まり返っていた。
ラヴォワ警部は最後にゆっくり息を吐き、ミシェルに告げる。
「Michel… il faut rassembler toutes les preuves avant de tirer des conclusions.
(ミシェル……結論を出す前に、全ての証拠を集める必要がある)」
ミシェルはうなずき、慎重に被害者の周囲を調べ始める。
「Oui, chef… chaque détail compte.
(ええ、警部……一つ一つの細部が重要です)」
静寂の中、二人の足音だけが微かに響き、アトリエの窓から差し込む朝の光が、倒れたキャンバスと散乱する絵具に淡く反射した。
アンリ・デュヴァルは、モンマルトルの坂道に立つチハルーナのそばで、青ざめた顔をさらに引きつらせた。
彼は昨日から、彼女に執拗に「守る」と言い続け、常に影のように付きまとっている。
「Ils meurent tous autour de toi… c’est étrange, non ?
(君の周りでばかり死人が出る……奇妙だと思わないか?)」
アンリはチハルーナの後ろに立ち、細い指で肩を軽くつつきながら声を潜める。
彼の目は、道の向こうの人々やアトリエの扉を警戒するように泳いでいた。
その少し離れた場所に、画家のエチエンヌ・ラモンが立っている。
彼はチハルーナを斜め前から見つめ、舌打ちをしながら眉をひそめる。
「Elle attire la mort… je le sens.
(あの女は死を呼ぶ……俺にはわかる)」
その声は低く、周囲に聞こえないように呟くような口調だが、目は確かにチハルーナに釘付けだった。
さらに数歩離れ、スカーフを巻いた画廊の従業員、マルセル・デュポンは柱の陰に隠れるように立っている。
彼は小さな声でチハルーナの姿を確認しつつつぶやいた。
「Elle sait quelque chose… j’en suis sûr.
(チハルーナは何かを知っている、絶対に)」
手にはわずかに折れた鉛筆を握り、視線を逸らさない。
アンリは守護者のようにすぐ隣、エチエンヌは警戒心を剥き出しに斜め前、マルセルは物陰から様子を窺う。
チハルーナは静かにスケッチブックを抱え、三者の視線を一瞬ずつ感じながら、微動だにせず川沿いの坂道を見つめていた。
微かな風が吹き、エチエンヌの髪を揺らす。アンリは眉をひそめ、マルセルは息を殺す。
その静寂の中で、三人の心に異なる不安が広がっていた。
アトリエの夜
その夜、チハルーナはセーヌ川沿いの古いアパルトマンに戻った 。
月光が窓から差し込み、肌に淡い銀色が落ちる。
黒髪がゆっくりほどけ、肩に流れるその仕草だけで、室内の影がひとつ息を呑んだ。
鏡の前でシャツを脱いだ瞬間、ランプの橙色の光が白い肌の曲線に柔らかく触れる。
光と影のコントラストは官能的に揺れ、鏡越しの瞳は夢の底のように静かな光を宿す。
「私の周りで……また人が死ぬ」
そのつぶやきはため息とも祈りともつかず、闇に溶けていった。
スマホが光る。画面には鎌倉光子。
「まだ起きてる?」
その文字だけで、チハルーナの表情に温かい色が灯る。
指先でそっと画面を撫で、呟く。
「光子……」
朝靄に包まれたモンマルトルの丘の上、チハルーナは黒いコートの裾を風にそよがせながら、坂道の先に広がる街を静かに見下ろしていた。薄紫色の光が石畳に柔らかく落ち、セーヌ川の水面は霧に溶け込むように揺れている。
その横でラヴォワ警部は双眼鏡で街の屋根や路地を確認し、ミシェル刑事はメモ帳に目撃情報を記録していた。二人とも、昨夜の連続事件がこの街に残した不穏な空気を肌で感じている。
そこへ、和服姿の明智小誤郎が息を切らしながら駆け寄る。丘の石畳に両手を大きく広げ、胸を張って叫んだ。
「わかりました! この事件は――“影絵師の復讐”です!!」
ラヴォワ警部は頭を抱えた。
「Encore ?!(またか?)」
明智は丘の斜面に立ち、手を空に向けて示す。朝靄に包まれた街の建物の影を指さしながら、まるで影そのものが言葉を語るかのように声を張る。
「見よ、丘の向こうの屋根に落ちる影! あの角度――昨夜の犯行時刻を告げているのです!! 月光が絵の影を通じて、犯人の意思を示している!!」
ミシェル刑事は眉をひそめる。
「Je ne comprends pas ce qu’il dit…(一体こいつは何を言っているんだ?……)」
チハルーナは少し顔を背け、苦笑を浮かべる。
「芸術と推理を一緒にしないで!」
明智は気にする様子もなく、朝靄に溶け込む丘の街並みを再び指さした。
「さらに! この石畳の濡れた模様――雨粒に反射する影の揺れ! これこそ“影絵師の暗号”です! 被害者の運命を、自然が描き出しているのです!」
ラヴォワ警部は目を細め、肩越しにチハルーナを見た。
「Monsieur… vraiment, il est incorrigible.(本当に、彼は直らないな)」
チハルーナは肩をすくめ、霧に溶ける街の光を見つめる。
明智の奇妙な情熱は、周囲の空気をわずかに震わせるが、彼女にはどこか遠い夢の住人を見るような静かな興味が残っていた。
丘の下、石畳の坂道に散らばる影と光を眺めながら、明智はさらに声を大きくした。
「犯人は影を通して街に語りかけ、我々にヒントを残しているのです!! 被害者たちは、この暗号に逆らった者……」
ミシェル刑事はため息をつき、メモを握りしめた。
「Chef… est-ce que tout cela a vraiment un sens ?
(警部…これ、本当に意味があるんでしょうか…)」
ラヴォワ警部は肩をすくめ、街を見下ろす。
「Que cela ait un sens ou non, il faut vérifier tout ce que l’on peut voir…
(意味があるかどうかはともかく、見えるものすべてを確認するしかない…)」
チハルーナは微かに笑みを浮かべ、朝靄に溶ける街の輪郭を指先でなぞるように見つめた。
明智の妄想推理が炸裂する丘の上――だが、真実は少しずつ、しかし確実に影の向こうで動き始めている。
アトリエの静寂
モンマルトルの丘は、夜になると別の街になる。
酔客の笑い声が遠ざかり、石畳は冷え、霧がゆっくり坂を降りてくる。
画家たちのアトリエが並ぶ一角では、
その静寂はさらに深く、
ひとつ息をすれば音が跳ね返りそうなほどだった。
チハルーナの近しい画家仲間――
ジャン=ピエール・ロワールのアトリエも、その一つにあった。
昼間、彼は警察に簡単な事情聴取を受けたあと、
「今夜はアトリエで作業するよ」とチハルーナに笑ってみせた。
「Ne travaille pas trop tard.(あまり夜更かししないでね)」
彼女の言葉に、
ジャン=ピエールは肩をすくめてみせた。
「Je veux finir ce tableau. Après ça, je dors.(この絵を仕上げたいんだ。終わったら寝るさ)」
そのやり取りが――彼を生きて見た最後の瞬間だった。
***
深夜。
モンマルトルの風は冷たく、
霧に濡れた街灯の光だけが路地に揺れていた。
ジャン=ピエールのアトリエの窓からは、
画布を照らすランプの光が漏れていた。
外から薄く見える影は、
キャンバスに向かって筆を動かす姿――のように見えた。
しかし、よく目を凝らすと、影は動いていなかった。
ランプの光と、奥の暗闇の境目が――妙に静かすぎた。
***
アトリエの近くを歩いていた画廊従業員のルネが、偶然その前を通りかかった。
「ジャン=ピエール? まだ起きてるのか?」
彼は軽くドアをノックした。
返事はない。
明かりは灯っているのに、音も気配もない。
ルネは首をかしげ、ドアノブを試した。
――ガチャリ。
内側から鍵がかかり、重く動かなかった。
「……閉めて作業してるのか?」
そう思いながらも違和感が残った。
昼間のジャン=ピエールは、
閉所恐怖症気味で、作業中は必ずドアを半開きにしていたはずだ。
そのとき、
アトリエ内部から、微かに“カタン”と乾いた音がした。
ルネはぎょっとして後ずさりし、
すぐに近くにいたパトロール中の警官を呼んだ。
***
警官がドアを叩く。
「Police ! Vous allez bien ?(警察だ! 大丈夫か?)」
返答はない。
数回呼びかけたのち、
警官は道具を使ってドアを強制的に開けた。
ゆっくりと軋む音とともに、
アトリエの内部が露わになる。
最初に目に飛び込んできたのは、
床に倒れた巨大なキャンバス。
厚く太い木枠が、地面に叩きつけられていた。
その下に――人の足が見えた。
「……まさか」
警官とルネが近づくと、
倒れたキャンバスの影から、
ジャン=ピエールの手がのぞいていた。
石畳をつかむように伸ばされた指先は、
すでに冷たく強張っていた。
***
アトリエの内部は荒らされておらず、
争った形跡もない。
ただひとつ、不可解な物が目についた。
倒れたキャンバスの近くには、
細かな破片となった小型のタイマー装置が散らばっていた。
それは、
何かのスイッチを作動させるための“仕掛け”の残骸に見えた。
さらに――
ジャン=ピエールの手にはスマートフォンが握られており、
画面にはたった一言だけ。
「Maintenant.(今だ)」
その文字は、
画面の光の中で異様な冷たさを放っていた。
その後、ラヴォワ警部とミシェル刑事が駆けつけ、
モンマルトルの細い路地は再び騒然となる。
ラヴォワ警部は眉間に深い皺を寄せ、低くつぶやく。
「Ce n’est pas un tueur ordinaire…(これは普通の犯人じゃない……)」
ミシェル刑事はタイマー装置を指差す。
「Le système électrique a été déclenché à distance… peut-être.(電動装置が遠隔で作動した……可能性もある)」
その横で、明智小誤郎は肩で息をしながら、地面に落ちたキャンバスをじっと見つめていた。
「ふむ……この倒れ方、まるで“月光の矢”に射抜かれたかのようですな!」
チハルーナが目を丸くする。
「月光の矢って……意味がわからないわ」
明智は指を一本立て、床の影を追いながら熱弁をふるう。
「影の長さ、方向、微妙な歪み……これは犯人が夜の影絵師であることを示しております!」
ラヴォワ警部は眉をひそめ、ミシェル刑事はため息をつく。
「Qu’est-ce qu’il dit encore…(彼はまた何を言っているんだ……)」
明智は胸を張る。
「いや、これは“芸術”です!
犯人は影の動きを読み取り、タイミングを月光に合わせて装置を作動させたのです!」
チハルーナは苦笑しつつも、遠隔操作の装置を凝視する。
「つまり……これは偶然に見えて、計画的な殺人……でも、犯人はここにいないってことね」
明智は目を輝かせる。
「正解です! ここにいない、しかし影で現れる……まさに“幽霊絵師”の復讐劇!」
ミシェル刑事が小声で呟く。
「幽霊絵師……本当に勘弁してほしい」
ラヴォワ警部は冷静に現場を調べつつも、明智の興奮に呆れ顔。
「Il faut cependant examiner les preuves réelles… .(実際の証拠を調べねば)」
明智は指で床の破片や影をなぞりながら、さらに叫ぶ。
「見てください、この影の曲がり方! 月光が犯行時間を告げているのです!」
チハルーナは微笑みながらも背筋に寒気を覚える。
影の長さと方向――明智の妄想とは別に、現場に仕掛けられた遠隔装置は確かに正確なタイミングで作動していた。
偶然と意図が、夜の路地で重なり合う。
チハルーナは静かに息を吐き、アトリエでの連続事件の不気味さを思い返す。
明智の珍推理の騒がしさの中で、現実の恐怖は、静かに、しかし確実に積み重なっていった。
警察はいったん現場を引き上げ、チハルーナと明智小誤郎は彼女のアトリエに戻った。
チハルーナは静かに目を伏せる。
月光が窓から差し込み、白い指先が窓枠にそっと触れる。
黒髪が肩に落ち、光と影の狭間で、彼女はまるで夢の住人のように立っていた。
明智の声。「チハルーナさん、大丈夫で?」
彼女は振り返る。瞳は夜の水面のように揺れた。
「……大丈夫よ。明智さん」
微かな震えを含むその微笑みは、現実から遠く離れすぎていた。
アトリエの奥から、かすかな金属音。チリン……と鎖の音。
「…Une ombre.(……影)」
チハルーナは小さくつぶやき、ランプの光がちらりと瞬き、床に落ちた影が一瞬だけ大きく伸びた。
「今日は休みましょう」
微笑むチハルーナ。
明智は戸惑いながら頷く。
最後のランプに手を伸ばすと、淡い光が彼女の横顔を照らす。
それはまるで――夜が描いた肖像画のようだった。
灯りが消え、静寂が落ちた。
残されたのは、薄い月光と――まだほんの少しだけ揺れている鎖の影。
【第4話予告】
――夢幻の錯覚。
連鎖する死と、光の届かぬ絵の影。
チハルーナの周囲で再び蠢く不安と疑惑。
「犯人はフランスにいる」――そう誰もが信じたその時、
パリ郊外の静かなアトリエで、
“見えない手”が、またひとつの命を奪う。
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登場人物紹介
明智小誤郎(あけち・こごろう)
自称探偵。真面目で情熱的だが、常に推理が的外れ。偶然に助けられて真相に辿り着くことが多い。芸術的感性を磨くためというよく分からない理由でフランスに滞在中。
中田チハルーナ(なかた・チハルーナ)
妖艶で神秘的な雰囲気をまとう画家。日本人だが、自分をフランス人とのハーフと語る。フランス語混じりの日本語を話すなど、どこか現実離れした印象を与える。
鎌倉光子(かまくら・みつこ)
チハルーナの日本時代からの友人。日本に住んでおり、ビデオ通話などで彼女と頻繁に連絡を取っている。穏やかで理知的な人物。
アンリ・デュヴァル
フランスの著名な画商。チハルーナの作品を高く評価し、商業的にも売り出そうとしている。プライドが高く、少々傲慢な性格。
カミーユ
チハルーナの弟子で、まだ若い女性画家。純粋で努力家だが、チハルーナへの憧れが強すぎるところがある。
マドレーヌ
モンマルトルの画廊オーナー。華やかで社交的な女性。チハルーナの才能をいち早く見抜き、展覧会を開こうと奔走していた。
ラヴォワ警部
パリ警察の警部。理知的で冷静な現実主義者。明智の奇抜な推理に振り回されつつも、彼の奇行をある程度は許容している。
アラン
チハルーナのアトリエの照明技師。電気設備に詳しく、誠実な性格。アトリエ周辺の機材整備などを担当している。
ベルネ署長
パリ警視庁の上司にあたる人物。強面で短気。明智を「観光探偵」と呼び、捜査現場に顔を出すたびに眉をひそめる。
ミシェル刑事
ラヴォワ警部の部下。観察眼が鋭く、地道な聞き込みを得意とする。明智の言動を密かに面白がっている節がある。
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